[起業] IT新産業分野に関する考え方〜その④〜

ブームにあえて乗らない


Posted by Ryuichi Yamashita on Nov 24, 2016

本日は人工知能領域に関して私見を述べさせて頂きたいと思います。この領域で私が重要だと思う点は、現時点で人工知能に過度な期待をするべきではないということと、メディアがまるで何かのブームのように「人工知能」という言葉をことあるごとに多用していますが、この現象に対して冷静に目を向けることだと考えています。

具体的な理由に入る前に、次の文章を読んでみてください。

「一九八〇年代初期にさかんに喧伝されたテーマとしてAI(人工知能)がある。誰もがAIについて記事を書き、大手の顧客企業は、テクナレッジ、シンボリックス、インテリコープなどのベンダーに代表されるAIの時流に乗ろうとした。これらのベンダーの顧客リストを見ると、まるでフォーチュン一〇〇社のフーズ・フー人名録のようだった。インテリコープ社の会長であるトム・ケーラーのように、AIのパイオニアと目される人物は、『インク』誌に始まって、『ハイテクノロジー』誌、『タイム』誌、さらには『ウォールストリート・ジャーナル』紙の一面にいたるまで、常にメディアに取り上げられていた。そしてインテリコープ社は、その勢いに乗って上場した。」

この文章について、いつ頃書かれたと皆さんは思われるでしょうか。

実はこれは、2002年に発行された「キャズム」(ジェフリー・ムーア著)に書かれている文章です。日本語版でこの2002年なので、英語版はもっと早く、2000年前後に書かれていると思われます。

この文章からも読み取れるように、かなり昔から「人工知能」というキーワードはブームになりやすいという性質があるようです。最近では、囲碁界のプロたちが相次いで人工知能(を搭載しているというコンピュータ)に負けることがあり、これらのニュースも合わせて、「これからは人工知能の時代だ。ここ数年の間に人間の仕事の約半数はコンピュータにとって代わるだろう。」などという情報や、「人工知能がシンギュラリティ(人工知能が自ら人工知能を発展させることができる、いわゆる閾値のようなもの)を超える時代がもうすぐやってくる。」という情報を皆さんもお聞きになられたこともあるかもしれません。

しかしながら、私が思うに、このような情報は1980年代に人々を一時的な熱狂に陥れた時の情報と質レベルで一緒です。つまり、根拠なく騒いでいるだけで、本質を掴めていません。未来は予測できないことは百も承知で断言させていただくならば、「人間の仕事の約半数はコンピュータにとって代わる」なんてことは当分(少なくとも数十年というスパン)起こりえないし、「シンギュラリティ」なんて論じるだけ時間の無駄です。

ただ、牛歩のようなスピードで人工知能の技術が日進月歩進化していることも事実です。特に、画像解析の分野で多くの実績が積まれているのですが、例えばGoogleのチームが実現したように「猫」の画像をコンピュータに見せて、コンピュータがそれは「猫」であると判断できた事例などは人工知能業界にとって革命だったようです。

これはすなわち、我々人類にしか捉えることができていない、より抽象的な概念をコンピュータ上で扱えるようになってきている、ということを意味しています。したがって、このような抽象的な概念を扱う分野(例えば文学など)で人工知能は進化していく可能性を大いに秘めていると思いますが、まだまだ人工知能はこのレベルです。

もちろん、このレベルでも十分すごいことだと思いますし、このレベルでも私たちがうまく人工知能を利用することができれば、人工知能は私たちの生活をより豊かにしてくれることでしょう。やがて、今のような「人工知能」ブームは去ると思われますが、その時こそ、私たちの生活を真に豊かにしてくれるサービスを作りあげたいものです。